馬上の二人

読書記録。ネタバレ有り。

エラリー・クイーン『ローマ帽子の秘密』

ローマ帽子の秘密

ローマ帽子の秘密

 

 初めてのエラリー・クイーン。文章がしつこく、長ったらしくて苦手である。解決を読んで、こういう筋道だった推理のためにここまでの手続きが必要なのか、推理小説って面倒なものなんだな、と普通のことを思った。ここは省略して可能性に含みをもたせれば一気に面白くなるのに、という場面をくどくどと選択肢を検討する。帽子の謎というのも、怪奇を渦巻かせるまではいかない。

 クイーン家がはじめて描写される場面で、衒学趣味を仄めかそうとしている部分が上滑りしている。実のところ、ジョン・ディクスン・カーのようにはそういう要素が本質的に好きではないのだろうな、と思わせる。怪奇と理性のせめぎあい、という部分で想像力がはじけず、はじめから演繹的推理の勝利が決定している。クイーン父子がどちらも探偵役として優秀なのも、結局頭のいい内輪で褒めあってるだけだな、という感じでしらけてしまう。これだけの登場人物を配置しながら、読み終えてみれば普通の印象におさまってしまうことの凄みはある。

 私は推理小説を読むとき、読者に疑惑の種を蒔くために廃棄された大量の可能性の選択肢のことを思って悲しくなることがある。疑惑のすべてが炸裂するような小説はありえないのだろうか……それが推理小説の形をとることはないかもしれないけれど。