馬上の二人

読書記録。ネタバレ有り。

アガサ・クリスティー『杉の柩』

杉の柩 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

杉の柩 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

 

 ポアロ・シリーズを順番に読んで折り返し地点まできた。タイトルの『杉の柩』はどういう意味だったのだろう? と思ったが、シェイクスピア十二夜」の引用らしい。

 推理小説において、手紙や証拠文書の正当性はどのように担保されるのだろう? 小説の外部を調査できないのであれば、結局は作者の都合でどうにでもなってしまうのではないだろうか。今回の偽の手がかりはフェアなのかどうか……

 『ナイルに死す』などそうだが、クリスティは恋愛の三角関係で愛憎半ばする女性二人が出てきたとき、ははあ、これは百合ですねと読者は――というか私は――思うわけだが、そういうときに限って片方が死んだりする。死んだからといって百合でないということにはならないわけだが、それでも異性愛規範のようなものに妙に引きずられていってしまう。暗示的でしかなかった関係が、死ぬことによって永遠のものとして結晶化されるともいえるかもしれない。それはそれで素敵なことだ。