馬上の二人

読書記録。ネタバレ有り。

トマス・ピンチョン『重力の虹』

トマス・ピンチョン全小説 重力の虹[上] (Thomas Pynchon Complete Collection)

トマス・ピンチョン全小説 重力の虹[上] (Thomas Pynchon Complete Collection)

 
トマス・ピンチョン全小説 重力の虹[下] (Thomas Pynchon Complete Collection)

トマス・ピンチョン全小説 重力の虹[下] (Thomas Pynchon Complete Collection)

 

  ウオーーーーーーーーーーーーーー!!!!?!????!!!!!

 小説はゼロの彼方に辿りつけるのか? カウンターフォースの面々がやったことは結局(『アニマル・ハウス』もどきの、あるいは『裸のランチ』なみの)下品なダジャレでパーティを台無しにしてワイワイしていただけじゃないのか? あれがアメイジングな優美さなのか?

この話、ユーモアで締めるパンチラインがあるかと思うと、さにあらず。計画はうまく行かず、スロースロップは組み立てられるどころかすっかり解体され、散布される運命をたどる。

 ……もしかしたら失敗作かもしれない。(だとしても、)偉大な失敗作と言うべきだろう。縺れにもつれたスロースロップの歴程がアンチ・パラノイアとして散逸し、ほどけていく過程は、思索のパウダーをまぶしながらも端的に小説がまとまらなくなったんじゃないかと思わせる。全体小説はいかに不可能になるのか。

  最終セクションの語りは自在で、無軌道で、適当である。気が抜けたときのディックみたいな。そういう部分が好きだ。

クレプラハ嫌いの子の話を憶えているかな。嫌悪を超えて恐怖を抱き、クレプラハを目にしただけで緑色の発疹を起こす、全身に立体地図のようなブツブツの盛り上がりが、所を変えながらできるのである。母親がその子を精神分析医のところへ連れていく。「未知のものに対する恐怖ですな」灰色の大物が診断をくだす。「クレプラハを作っているところを見せてあげれば、しだいに慣れてくるでしょう」 帰宅後の台所。「さあ、ママがビックリするほどおいしいものをつくりますからね!」「ワーイ! ヤッター、ママ!」と喜ぶ子供に、「いいですか、まず小麦粉と塩をふるいにかけて、小さなお山を作ります」「何つくるの、ハンバーガー? ヤッター!」「ハンバーガーのお肉と、タマネギね。こうやってフライパン、ほら、いためますからね」「うわあ、おいしそう、待ちきれないよ。今はなにしてんの?」「小麦粉の山に火山の口をあけて、卵を割って、中に入れて」「かきまぜるの手伝おうか? お、すごいや!」「それを平らに伸ばしまーす。ほらペッタンコになったでしょう。そしたらこれを四角に切って――」「いけいけ、ママ!」「スプーンでお肉をすくって、この四角いのにはさんだら、三角に折りたた――」「GAAHHHH!」男の子が叫ぶ、真の恐怖に襲われて――「クレプラハだ!」