小池滋『ゴシック小説をよむ』
あっさり読めるアンチョコ。ピクチャレスクの起源などがわかる。ホレス・ウォルポールだけが変人だったのではなく、当時のイギリス社会にゴシック建築へと至る廃墟趣味や崇高の魅力に関する文化的素地があったのだと。「グランドツアー」がそれを準備したのだと書かれている。想像以上にゴシック小説とミステリーの関連は深そうである……ということは、ウォルポールの『オトラントの城』がジョン・ディクスン・カーのようなスラップスティックな面白さに満ちていたときに思った。もちろん、エドガー・アラン・ポーもゴシックとミステリーを架橋する重要人物だろう。
冒頭にある「ゴシック小説関連年表」から、文献出版に関する出来事のみ、邦訳のあるものを抜粋・要約して転載する。著作権的にはまったくよくないのだろうけれども、学びのほうが大事だと思う。
1757年 エドマンド・バーク『崇高と美についての英国人の観念の起源に対する哲学的考察』
1764年 ホレス・ウォルポール『オトラント城』
1777年 クレアラ・リーヴ『美徳の戦士』(翌年、『イギリスの老男爵』に改題)
1786年 ウィリアム・ベックフォード『ヴァテック』
1791年 サド公爵『ジュスティーヌ、あるいは美徳の不幸』
1794年 ウィリアム・ゴドウィン『あるがままの現実、あるいはケイレブ・ウィリアムズの冒険』(同年、アン・ラドクリフが『ユードルフォの謎』を書くが、ちゃんとした邦訳がないようである)
1796年 マシュー・グレゴリー・ルイス『アンブロージオ、あるいは修道士』
1797年 アン・ラドクリッフ『イタリア人』
サド公爵『ジュリエット物語、あるいは悪徳の栄え』
1798年 チャールズ・ブロックデン・ブラウン『ウィーランド、あるいは変身』
1814年 アーデルベルト・フォン・シャミッソー『ペーター・シュミレールの不思議な物語』
1815年 エルンスト・テオドール・アマデウス・ホフマン『悪魔の霊薬』
1818年 ジェイン・オースティン『ノーサンガー・アベイ』
メアリー・ウルストン・クラフトシェリー『フランケンシュタイン』
1820年 チャールズ・マチューリン『放浪者メルモス』
(同年、オノレ・ド・バルザック『ファルテュルヌ』)
1822年 オノレ・ド・バルザック『百歳の人、あるいは二人のベランゲルド』
1837年 プロスペル・メリメ「イールのヴィーナス」
1845年 エドガー・アラン・ポー『短編集』
1847年 シャーロット・ブロンテ『ジェイン・エア』
エミリー・ジェイン・ブロンテ『ワザリング・ハイツ(嵐が丘)』
1860年 ウィリアム・ウィルキー・コリンズ『白衣の女』
1869年 プロスペル・メリメ「ロキス」