馬上の二人

読書記録。ネタバレ有り。

エラリー・クイーン『エジプト十字架の秘密』

エジプト十字架の秘密

エジプト十字架の秘密

 

 鍵アカウントで感想ツイートをしたので以下。

 

 ・『エジプト十字架の謎』読んだ。トリックは予想できて、犯人にはそこそこ自信があったのだが、組み合わせで外した。この動機(?)はズルいと思う。当てようがない。とはいえ意外に面白かった。

 ・国名シリーズがこれまで書いてないオープンワールドな舞台を扱っているし、殺し方も派手だし、なにより裸体主義者の島が出てくるところがいい。バカみたいな追跡劇も面白いし。クイーンが考えすぎてバカになってるのをヤードリイ教授に諌められる場面も好きで、こっちが探偵でもいいのにと思った。

 ・犯罪計画それ自体は異様に緻密なのに舞台で起こることがけっこうおおらかでバカバカしい。急に雑な殴り合いが発生したりするし。国名シリーズで今のところいちばん好きかもしれない。

 

 まあ、首切り死体が出てきたところでバールストン・ギャンビットぐらいは予測するわけである。だが、あくまで全体がクロサックの陰謀であって、アンドルー・ヴァンを殺したときにクリングを誘拐し、クリングが死体であってアンドルーが生きていると思わせるトリックを実装したのかと思った。だが、これではトマス・ブラッドが待ち合わせで安心していた理由(離れているせいで顔が解らなくなっているのかと強引に想像していた)、その後あらわれたピート老人がアンドルー、あるいはメガラに似ていた理由を説明できない。クロサックの母親が一族に犯されたせいで遺伝的に似ていた、という説も考えたのだけど、時系列的におかしい。

 バールストン・ギャンビットを予測させながら、可能性を複数維持させるためにかなり面倒な処理を行っている。もちろん、普通の連続殺人にも偽装しなければならない。面倒なことだ。首なし死体から「首がないという事実を隠蔽する」ために、推理小説の構造としてクイーンは勝手に騙されていく。エジプト十字架というタイトル自体がそのナンセンスさに奉仕している。

 この真相の難解というか凶悪なのは、クロサックの殺意と陰謀自体は存在するのに、真犯人は返り討ちとして兄弟もろとも殺していることだ。ヤードリイ教授は「狂人が偶然こんなにも多くていいのか」と言っていたけれど、殺意がこのように偶然重なることの方が信じがたい偶然である。それに対する動機の強引さも厳しい。でも、この強引さゆえの本格だよな、とも思うので、それもまたよし。