馬上の二人

読書記録。ネタバレ有り。

A・A・ミルン『赤い館の秘密』

 おおよそ真相は見抜いたが、探偵の言動にかなりアンフェアなミスディレクションがあって、最後に疑念を持ってしまった。わりと面白い細部が多いが、ミステリーとしては中途半端な出来だと思う。「探偵小説は読者に意味がはっきりわかる、きちんとした言葉で書かれるべきだ」という作者の後書きにわたしは同意するが、登場人物の誰もを怪しい状態にして容疑者をとっちらからせる本格ミステリの基本的な技術に対して、ミルンがそれを「わけがわからない」言葉だと言っているようなのがわたしにはどうも気に入らない。『赤い館の秘密』のミステリーとしての弱点は、本筋と関わっていないことが明らかな登場人物がそれなりに多く、真相がバレバレである点にある。

 とにかく場面としてはダレそうなところも文章がいいのでそれなりに楽しく読める。これはワトスンとホームズの子供っぽい冒険譚である。

「ワトスン役に徹する覚悟はあるかい?」

「ワトスン?」

「“いっしょにやるかい、ワトスン?”というところさ。シャーロック・ホームズのセリフだよ。つまり、きみは明々白々のことを自問自答する。あれこれと素朴な質問をする。わたしがきみを出し抜く機会を作ってくれる。わたしがとっくに見抜いたことを、数日たってからきみ自身が発見して得意満面になる。そういう役割をやってくれるかい? そうしてもらえると、大いに助かるんだ」

「はてさて、トニー」ベヴァリーは喜々としていった。「ぼくが必要だって?」

 ギリンガムはなにもいわなかったが、ベヴァリーはうれしそうに話をつづけた。「こういうことだね――シャツにイチゴのしみがついているから、きみはデザートにイチゴを食べたにちがいない。ホームズ、きみには驚かされるね。ちっ、ちっ、きみはわたしのやり方を知っているはずだ。煙草はどこだ? 煙草はペルシア靴のなかだ。一週間ほど患者を放っておけるかい? ああ、いいとも。うんぬん」