馬上の二人

読書記録。ネタバレ有り。

我孫子武丸『8の殺人』

新装版 8の殺人 (講談社文庫)

新装版 8の殺人 (講談社文庫)

 

 これはけっこう面白かった。水でふやかしたカーみたいな感じ。

 大掛かりなトリックを考えるほどバカバカしくなるというミステリーの欠陥を、逆手に取ったというか、開きなおったというのか、でも、こういう「やってみたくて殺した」系の話はかなり共感できる。「ジョン・ディクスン・カーを読んだ男」みたいな。もし自分がひとを殺すとしたら、やはり密室だろう。

 密室講義の一種、「準密室講義」とでも呼ぶべきものが作品内にある。準密室って、どのぐらい一般的な用語なのだろう? (乱歩による用語という記載があったが、『続・幻影城』のなかで読んだ記憶がない。もちろん、わたしが読み飛ばしたのかも知れない……)わたしは、こういう物理的に出入り不能ではない部屋は厳密には密室と認めたくない派で、出入口の監視がある密室は(物理的密室と区別するために)「心理的密室」という呼称を採用している――のだが、別にちゃんとした決まりはないようだし、好きにすればよさそう。カーの密室講義も、物理的密室/心理的密室を厳密に区別せずに並行して考察しているようだし。

 ともかく、準密室を扱った『8の殺人』の二つ目の密室は、珍しく自分で解くことができた。最初の密室はハズレ。8の字である利点をまったく活かそうとしていなかった発想だったので(壁に映像を投影してその部屋にいたと見せかけるというもの、映画に詳しいらしい菊二を容疑者として考えていた)宜なるかな