馬上の二人

読書記録。ネタバレ有り。

横溝正史『犬神家の一族』

犬神家の一族 金田一耕助ファイル 5 (角川文庫)

犬神家の一族 金田一耕助ファイル 5 (角川文庫)

 

 映画の前に読んでみることにした。わりと通俗的に面白い。

 佐清のマスクがいかにもトリックと関わっていそうなのだが、指紋の処理などが出てきておやおやと複雑になる。隣町の家で縛られ殺されている男のくだりが絵的には地味なのだが、ミステリーとしてはいちばん面白い。屋敷にいる人間には全員アリバイがあり、外部でうろついている怪しげな男がとうぜん犯人かと思われるのだが、実はそうならない……ということのために不思議な動機の処理をしている。

 人間関係、動機の配置パターンが『本陣殺人事件』とも似てるな、と思った(「影の人」という怪しげな闖入者が事件に絡んでくるところも)。共犯者が主犯よりも張り切ってややこしいことになるパターン。こうした“運命の悪戯”は応用が効きそうだが、便利すぎて収拾がつかなくなるおそれもある。一貫性のある謎解きにするのは難しいだろう。だから、金田一耕助が大見得を切って解説をするというより、大まかな推理をして細かいところは登場人物に解説してもらう、ということになっている。

 家父長制の血で血を洗うドロドロとは別軸として、戦後の混乱そのものが全体の動機にも関わっている。この日本の二つの特徴をミステリーとして通俗的に楽しめるようにしているのがいいところかもしれない。