折原一『倒錯のロンド』
叙述トリックの因果なところは、凝りに凝って複雑な仕掛けを弄するほど、肝腎の問題から肩透かしをされたように感じることで、……
途中までは面白かった。殺人場面が描かれても、事実と思しき情報をどこまで信用していいのかわからない。こういうのは「ホワットダニット」でもいうのか、実際には何が起こっているのか、というのが問題になっている。〈時系列の誤認〉〈人物の誤認〉というのがこの小説の大まかな核だが、ある人物とある人物がひとりの二重人格であると思わせて、実は……という、一つのトリックを匂わせることで真相を誤認させる基本技が丁寧に使われている。
真相が明かされたときに肩透かしを感じるのは、トリックを聞いたときに「ああ!」と膝を打つような、「そのトリックを採用していなければ説明のつかない現象」が書かれていないせいかもしれない。反応に困る。そもそも問われている問題の内実がはっきりしていないのに、「実はこういう問題だったんですよね」と言われても、という感じである。はっきりとフーダニットを絡ませるとか、問題を明確にしてくれると面白かったのかもしれない。
叙述トリックを用いながら、それが本筋とは関連のないサブトリックだったら話を複雑にできるだろうか、などということを思った。
結城信孝による解説に、内外叙述ミステリBEST20が付録されている。気が向いたらまとめて読みたい。
〈国内編〉
- 湖底のまつり/泡坂妻夫
- 百舌の叫ぶ夜/逢坂剛
- 弁護側の証人/小泉喜美子
- アリスの国の殺人/辻真先
- ロートレック荘事件/筒井康隆
- 三重露出/都筑道夫
- 新人文学賞殺人事件/中町信
- 捜査線上のアリア/森村誠一
- 誰にも出来る殺人/山田風太郎
- 私という名の変奏曲/連城三紀彦
〈海外編〉
- 鏡よ、鏡/スタンリイ・エリン
- 殺人交差点/フレッド・カサック
- 死後/ガイ・カリンフォード
- シンデレラの罠/セバスチャン・ジャプリゾ
- 心ひき裂かれて/リチャード・ニーリィ
- 歯と爪/ビル・S・バリンジャー
- 彼の名は死/フレドリック・ブラウン
- 殺す者と殺される者/ヘレン・マクロイ
- 殺人四重奏/ミッシェル・ルブラン
- 死の接吻/アイラ・レヴィン