馬上の二人

読書記録。ネタバレ有り。

有栖川有栖『月光ゲーム』

月光ゲーム―Yの悲劇'88 (創元推理文庫)

月光ゲーム―Yの悲劇'88 (創元推理文庫)

 

  これはけっこう面白かった。シチュエーションがいい。火山が噴火して逃げ道がなくなるクローズドサークルだが、妙に開放感があり、ときたま岩が降ってくるので定期的にアクションもあって、同じ場所にいても時間が停滞しない。非日常的な場所で見知らぬ大学生がワイワイやってるだけでけっこう面白い。深沢ルミが月光のもとでオカルトなことを言うのだけども、こういうのオタクは全員好きだと思う。有栖川が理代に惚れてる理由はよくわからなかった。どう考えてもルミでしょう、論理的にいって。参考文献として〈深沢ルミ愛読書〉が出てくるのもなんかいい。脱出直前にキャンプファイアーをやる場面も盛り上がる。ミステリー部分以外で読みどころが多い。

 かなりシンプルなフーダニットで、エラリアンだけあって不可能興味は薄い。謎解きとしては薄味な気もするけれども、少なくとも自分は犯人がわからなかった。こういう初対面のその場限りの相手の動機を探るのって難しいし、外部と連絡がとれないので情報があまり入ってこないのだけれども、いくらなんでも動機が薄味すぎる気がする(フーダニットを徹底するとそうなりがちなのかもしれないが)。動機を入り組ませて「誰が殺してもおかしくない」と大量のミスディレクションを発生させるのはクリスティがうまい。本作ではクリスティがひとつ下に見られている感じがして、やっぱりクイーン派なのだな、と思う。『46番目の密室』のときも動機の伏線が薄味すぎると思った。登場人物たちの怪しさを入り組ませる手際の弱さが、この人の弱点なのかもしれない。