G・K・チェスタトン『ブラウン神父の童心』
アイデアに多重の機能を持たせることがミステリー短編の作り方のコツなのかもしれない。
「青い十字架」:塩と砂糖を入れ替えることは、追跡者に気づかせる工夫になっているのと同時に、犯人を見分ける工夫にもなっている。
「秘密の庭」:前作と合わせて……というとネタバレになるのだけど。首切り系トリックの元祖なんだろうか。
「奇妙な足音」:階級意識に関する寓話のようでもある。
「飛ぶ星」:なにもかもがおとぎ話のよう。
「見えない男」:有名なトリックだが、それよりも犯人を誤認させるプロットの仕組みのほうに上手さがあるように思う。こいつが犯人だろ、と思った途端に殺される。
「イズレイル・ガウの誉れ」:これがいちばん好きです。
「狂った形」:幕切れの美しさ。
「サラディン公の罪」:これはホワットダニットに類するのだろうか。明らかになにか異様なことが起こっているのだが、どういうミステリーなのかが分からない。クリスティの短編に似た話があった。
「神の鉄槌」:別パターンのオチを考えた。ハンマーを投げ上げた男が間違って自分の頭に落ちて撲殺死体になるというもの。トリックよりも、敬虔な人物に見えた祈りの姿の意味が反転する瞬間のぞっとする感じがいい。
「アポロの眼」:目が見えないことが鍵になる。それが二重の機能を持っている。
「折れた剣」:一種の歴史ミステリーになるのだろうか? 真相を知ると街中にある像のすべてが不気味なグロテスクさを持って見え始める。
「三つの兇器」:〈大きすぎて見えない兇器〉よりも大事なのは、この転倒した状況。散らばる兇器は人助けのために用いられたもので、それでいて助けた人物が殺人犯として名乗りを上げる……という変な状況設定がまさに逆説的《チェスタトニック》。